デイサービスM&Aのデューデリジェンス|指定・加算・人員配置の確認項目
デイサービスM&Aのデューデリジェンス(DD)は、買い手が資料を受け取るだけの工程ではありません。事業所ごとの指定、加算の請求、人員配置、利用者情報、建物・送迎設備を照合し、承継後もサービスを続けるために何を確認・対応する必要があるかを整理する工程です。本稿では、譲渡企業が資料依頼と現地確認に備えるための確認台帳を示します。
資料の欠落と法令違反は同じではなく、書類が揃うことと適法性が確認できることも同じではありません。未確認の項目はそのまま残し、誰に確認するか、回答をいつ受けるか、契約・実行条件にどう反映するかを記録します。個別の指定、加算算定、雇用、税務等の結論は、指定権者と各分野の専門家に確認してください。
- 各事業所の指定種別、運営法人、必要な申請・届出を整理した一覧。
- 加算・人員・現場記録・請求の一致と不一致を示す確認台帳。
- 利用者情報を誰に、何のために、どこまで開示するかを定めた資料一覧。
- 未確認事項、対応担当、期限、必要な合意を残す実行前の課題表。
1. 事業所・法人・取引方式を先に整理する
複数拠点をまとめて見る前に、拠点ごとに指定通知書と更新関係の資料を並べます。通所介護、地域密着型通所介護、通所リハビリテーション、総合事業等では、サービスの区分や確認先が異なります。「デイサービス」や「リハビリ型」という呼称だけで指定を判断せず、通知書の正式な種別、所在地、指定権者、実際の提供内容を確認します。
厚生労働省のサービス説明でも、通所介護と通所リハビリテーションは別のサービスとして示されています。機能訓練を行うデイサービスを、指定上の通所リハビリと同じものとして扱わないことが出発点です。参照:通所介護の説明、通所リハビリテーションの説明。
| 集める資料 | 照合する内容 | 残す確認事項 |
|---|---|---|
| 指定・更新通知書、変更届と受付記録 | 法人、所在地、種別、定員等の記載と現況 | 現況との差、未入手の届出、指定権者に確認する事項 |
| 法人の登記事項、所有関係、取引対象の一覧 | 何を譲渡するか、運営法人自体が変わるか | 株式・事業・資産の範囲と、指定・契約の手続との関係 |
| 賃貸借契約、利用契約、委託契約 | 契約主体、変更時の条項、承諾・通知の要否 | 相手方への照会、必要な合意、予定日までの対応 |
株式譲渡を検討する場合は運営法人自体が同一か、役員・管理者・運営体制等に何が変わるかを確認します。事業譲渡等で運営主体が変わる場合は、新規指定・廃止・変更届、利用契約や請求主体の整理の要否を確認します。方式名だけで「手続は不要」「指定は自動承継」と決めないでください。
自治体の案内例として、横浜市は地域密着型サービスの事業譲渡・吸収合併・分割等について事前相談を求めています。他自治体の期限や取扱いをこの例から推定せず、対象事業所の指定権者と実行日までの工程を合わせます。参照:横浜市・地域密着型サービスの新規指定案内。
2. 加算は届出・実施記録・請求をつなげて確認する
加算名と売上額の一覧だけでは、算定根拠を確認できません。算定している項目ごとに、届出資料、対象期間、対象利用者、計画・実施・評価等の記録、配置した職員、請求明細を対応させます。どの記録が必要かは加算・サービス種別によって異なるため、現行の通知と指定権者の案内に照らします。
| 確認する組合せ | 照合のしかた | 不一致があったとき |
|---|---|---|
| 加算届と請求明細 | 届出内容、対象月、請求した項目を対応させる | 適用期間や受付状況を確認し、判断がつくまで未確認扱いにする |
| 計画・実施・評価記録と勤務記録 | 実施日、担当、記録の所在、当日の体制を照合する | 追加資料、記録管理者、算定根拠について専門家へ照会する |
| 運営指導等の指摘と改善報告 | 指摘事項への対応内容、その後の運用、請求処理を確認する | 未完了の対応、返還・修正等の検討状況を課題表へ残す |
不一致を見つけた段階で返還額や法的責任を確定したとは扱いません。譲渡企業様の説明、追加資料、指定権者・専門家への確認を分けて記録します。承継後に同じ加算を続けられるかも、届出、配置、実施体制、記録の継続を確認したうえで検討する事項です。
3. 人員配置は名簿と実際の勤務を照合する
職員名簿に名前があるだけでは、必要な時間帯に配置できているか分かりません。役割・資格資料・雇用契約、勤務予定と実績、勤怠、休暇・欠勤、兼務、送迎時間を並べ、サービス提供中の体制を確認します。人員基準の適用や兼務の可否は、指定種別・提供形態・現行基準に照らして確認してください。
- 管理者・生活相談員・看護職員・介護職員・機能訓練指導員等:各役割の担当、資格、勤務時間、兼務先、代替要員を資料と面談で確認する。
- 欠勤や退職が重なる場合:補充予定だけでなく、サービスを継続するための具体的な配置と責任者を確認する。
- 代表者・特定職員への依存:請求、記録点検、送迎調整、苦情対応など、担当変更に備えて引き継ぐ仕事を洗い出す。
- 労務資料:労働条件、給与・勤怠・残業等の記録、未解決の相談事項を整理し、雇用承継や条件変更は方式と契約に応じて専門家に確認する。
現地確認では、帳票にない運用も聞き取ります。「担当者が不在なら誰が請求前点検をするか」「送迎中に事業所内の体制はどうなるか」など、同じ業務を買い手が再現できるかを確かめます。確認台帳では、予定と実績、資料確認と聞取りを混ぜずに残します。
4. 利用者情報は開示の根拠と範囲を決めてから渡す
初期確認には、曜日別・時間帯別の稼働、介護度別の構成、送迎圏、受入体制などの集計を使います。氏名を消しても、住所や送迎経路、特徴的なケア内容等の組合せで個人が分かる場合がないかを確認します。買い手の調査目的に必要な情報と、現場のケアに必要な情報を区別してください。
個人情報保護委員会の通則ガイドラインには、事業承継に伴う提供や契約前の調査についての取扱いがあります。ただし、NDAという名称だけで全ての利用者記録を無制限に開示できるという意味ではありません。利用目的・取扱方法・漏えい時の対応・交渉不成立時の措置等を定める必要があり、承継後も承継前の利用目的の範囲を確認します。参照:個人情報保護法ガイドライン(通則編)3-1-4・3-6-3(2)。
詳細を開示する段階では、根拠、必要性、対象項目、閲覧できる人、保存先、持出しの可否、返還・削除の扱いを記録します。利用者・家族の医療や介護に関する情報には個別の配慮が必要です。適用関係は専門家に確認し、調査資料を広く回覧する運用にしないでください。参照:厚生労働省・個人情報保護委員会の医療・介護ガイダンス(2026年4月改正)。
5. 建物・設備・送迎はサービス継続への影響を見る
契約書の確認と現物確認を組み合わせます。賃貸物件なら契約期間・賃料・保証・変更時の条項・修繕負担、設備なら所有・リース・保守・故障状況、車両なら契約・保険・整備・運転体制を整理します。図面や届出資料と現場の使い方が異なる場合は、その理由と必要な確認先を残します。
利用者数の合計だけで送迎能力を評価せず、曜日、時間帯、乗降時の支援、運行時間、職員配置を確認します。変更を検討する場合は、影響を受ける利用者、代替案、説明担当を併記します。賃貸借の承諾や設備対応が未確定なら、サービスが必ず継続できると説明せず、必要な合意と実施時期を課題表に残してください。
6. 発見事項を「確認済み・未確認・要対応」に分けて残す
資料番号、対象拠点・期間、確認方法、確認日、資料に基づく事実、相手方の説明を記録します。そのうえで、未確認事項、想定される影響、対応案、確認先、担当者、期限を付けます。契約上の対応や実行前の条件に反映する必要があるかは、譲渡企業様・譲受企業様・専門家が協議する事項です。
| 記録例 | 確認・対応の例 | 状態の残し方 |
|---|---|---|
| 指定資料の記載と現在の管理者が異なる | 変更届の控え・受付記録を確認し、不明なら指定権者へ照会 | 届出資料未入手、担当・回答予定日を記載 |
| 加算の対象月と実施記録を対応できない | 記録管理者と対象範囲を特定し、請求担当・専門家と照合 | 算定可否や金額を断定せず、追加確認中と記載 |
| 退職予定者が請求点検を一人で担っている | 代替担当、手順、引継ぎ資料、実行日までの体制を協議 | 対応案と合意した内容を分けて記載 |
これらは確認台帳の使い方を示す説明例で、実際の成約案件や当センターの仲介実績を示すものではありません。リスクを見つけることだけを目的にせず、解消できる事項と未確定の事項を分け、情報を後から追える状態にします。
よくあるDDの質問
指定通知書があれば、指定の確認は終わりますか。
通知書は確認の出発点です。更新・変更届・現況、運営主体や取引方式の変更、必要な手続と実行日を合わせて確認します。指定権者の回答待ちなら未確認として残します。
小さな不一致は、買い手に伝えなくてもよいですか。
重要性を独断で決めず、事実と説明を分けて台帳へ残し、開示・契約上の扱いを専門家と確認します。既に解消した事項も、対応資料と再発防止の運用を示せるようにします。
利用者一覧を最初の資料依頼で渡す必要がありますか。
初期は集計等で確認できる範囲を整理します。個人を識別できる情報の開示は、目的・必要性・法的根拠・契約・安全管理を個別に確認し、段階と閲覧権限を決めて進めます。
DD資料の準備を次の検討につなげる
指定・加算・人員・利用者情報・設備の確認結果は、買い手が承継後の運営を検討する材料になります。未確認事項をなくしたことにせず、担当と期限を付けて管理することが、契約直前の認識違いを減らす準備です。資料に含まれる個人情報の保護と、サービス継続に必要な確認を両立させて進めてください。
価格の見方は企業価値評価・売却価格のガイド、相談から説明・実行までの段取りは秘密保持・職員説明・利用者承継の進め方で確認できます。記録とシステムの引継ぎは個人情報とサービス継続を守る承継実務で詳しく整理しています。
譲渡を検討し始めた段階でも、まずは譲渡相談フォームから状況だけ整理できます。事業所名を出す前に、開示範囲と優先順位を確認することが、納得できるデイサービスM&Aの第一歩です。
